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Masterpieces in Ferrari Era

フェラーリ時代の始まり

今年はマセラティ創立110周年のアニヴァーサリーイヤーだ。マセラティはマセラティ兄弟がそのルーツを作ったモータースポーツへの情熱とオルシ家が目指したハイクオリティなグラントゥーリズモの追求という二つのテーマにより、その栄光の歴史が彩られてきた。

今回はその二つのミッションを高いレベルでまとめ上げたルカ・ディ・モンテゼーモロによるマネージメント期に焦点を当てる。その象徴的な一台として、大ヒット作のなった「初代グラントゥーリズモ」を取り上げてみよう。

厳密に言えばこの「グラントゥーリズモ」は、彼のマネージメントを引き継いだ、フィアットによる次のマネージメント期にデビューしたものであるが、そのコンセプトはモンテゼーモロ期に定められ、ハードウェアも彼らのポリシーを踏襲している。

 

グラントゥーリズモの誕生

「グラントゥーリズモ」は 先行してリリースされた「クアトロポルテⅤ」のシャーシをベースとして開発された。その高剛性を誇るシャーシは更にブラッシュアップされ、ショートホイールベースされ、ピニンファリーナの筆による優雅なクーペボディが懸架された。

当初は4.2ℓのマラネッロ製V8エンジンがZF製トルクコンバータータイプの6速オートマチックミッションと組み合わされた。フロントミッドシップにマウントされたエンジンによりFR 車として理想的な前 49:後 51という前後の重量配分を誇った。

レヴァンテの開発過程において、50:50の前後重量配分、低重心化、空力の最適化に大きく拘ったという。そのシャーシは社運を掛けて全面刷新した現行クアトロポルテを起源とするところにある。しかしそれは単なるサルーンの全高をストレッチしたような安易なものでは決してない。シャーシ自体、適材適所で様々な新素材を採用しているし、サスペンションの設計も大きく異なっている。車両サイズの近いギブリとも異なったホイールベース長を設定しているところからもその拘りが解る。

マセラティとしてはじめて採用されたエアサスペンションもレヴァンテのエレガントかつスポ-ティというキャラクター設定に大いに貢献している。車高も使用用途やドライブモードに応じて6段階にアジャスト可能となっている。

また、空力特性も背の高いSUVにとっては重要なファクターだ。速度に応じて車高をオートアジャストするエアサスペンションとCx値を劇的に向上させたフロントエアシャッターにより、高速コーナーにおける路面追従性はSUVとして類を見ないものだと前出のコラ-ディは胸を張った。

スタイリングは世界のマセラティスタがこぞって賞賛した美しい2+2クーペ「アルフィエーリ・コンセプト」のDNAを受け継いでいる。このコンセプト・モデルは残念ながら市販化されなかったが、そのフロントやリアのモチーフを受け継いだレヴァンテの美しい姿は今も色あせることはない。

「グラントゥーリズモS」、「グラントゥーリズモMCストラダーレ」と、よりスポーティなテイストとスペックを持つモデルが追加され、4.7ℓエンジンやトランスアクスル・レイアウト、電子制御セミオートマチック=MCシフトの採用などグラントゥーリズモの進化は留まることを知らなかった。

また、2009年にはソフトトップを備えたフル4シーター・オープンモデル、「グランカブリオ」もラインアップに加わり、2019年までに「グラントゥーリズモ」とあわせてトータルで4万台という大きなセールスを記録した。

実用性とパフォーマンスの高次元での共存、そして エレガントなスタイリングを持ちながらも、世界最高と称された迫力あるエグゾーストノートを楽しむことができるという二面性は、まさに皆が夢見るマセラティのグラントゥーリズモ像そのものであった。

グラントゥーリズモは復活を担うコンセプト

さて、ここでこのモンテゼーモロによるマセラティ マネージメント期について少しおさらいをしてみよう。

1997年マセラティは同じフィアット(現ステランティス)グループの一員であったフェラーリと共にGruppo Ferrari Maserati(フェラーリ・マセラティ・グループ)という新たな座組の中で新たな道を歩むこととなった。モンテゼーモロはマセラティの長い歴史を持ったブランド力を高く評価していたから、フィアットグループの中で的確なポジショニングを模索した。その一つの答えが世界最高のグラントゥーリズモを目指すというコンセプトであった。

そもそもグラントゥーリズモとは基本的に2+2以上の居住スペースを持ち、充分なラゲッジスペースをもつ長距離ツアラーという性格を持ったスポーツカーカテゴリー名だ。

第二次世界大戦後にヨーロッパのラグジュアリーカーブランドがこういった良質のグラントゥーリズモを富裕顧客向けにこぞって開発したのだ。顧客たちはそんなグラントゥーリズモを操って国を跨ぎ整備されたヨーロッパの自動車専用道路を旅し、あるときは街中での日常使いとしても活用したのだ。

前マネージメント時代から開発が続いていた次期2+2クーペは「ミストラル」という大ヒット2シーターのモデルネームを踏襲するというアイデアもあったが、モンテゼーモロはマセラティの本質は使い勝手のよいグラントゥーリズモであるという解釈を明確にすべく、“GT=グラントゥーリズモ”の“ワード”を選択した。そんな経緯を持って名付けられたのが「3200GT」である。これはもちろんマセラティを代表する初代本格的グラントゥーリズモ、「3500GT」のイメージを強くアピールし、マセラティのグラントゥーリズモ復活を強くアピールするためのものでもあった。

 

マセラティ内製エンジン最後の3200GT

「3200GT」はフェラーリ・マセラティ・グループ誕生以前にその開発は始まっていたが、同じフィアットグループ内にあるフェラーリのリソースが積極的に活用され、リアアクスルなどが共用された他、ペイントもマラネッロで行われた。エンジンは3200cc V8ツインターボエンジンが採用され、マセラティ内製”ビトゥルボ系”(=ツインターボ)エンジンが採用された最後のモデルとなった。

マセラティ内製エンジン最後の3200GT

「3200GT」はフェラーリ・マセラティ・グループ誕生以前にその開発は始まっていたが、同じフィアットグループ内にあるフェラーリのリソースが積極的に活用され、リアアクスルなどが共用された他、ペイントもマラネッロで行われた。エンジンは3200cc V8ツインターボエンジンが採用され、マセラティ内製”ビトゥルボ系”(=ツインターボ)エンジンが採用された最後のモデルとなった。

当時ジョルジェット・ジウジアーロがテーマとしていた、エレガントなラウンドシェイプを取り入れながらも、張りのある力強いボディサーフェースをもったスタイリングが特徴だ。4ドアの「クアトロポルテⅣ」シャーシをベースに「3200GT」は開発されたことからも解るようにこのクラスのクーペとしてはかなり長いホイールベースを持つ。この長いホイールベースのおかげで、外観からは想像できない広いリアシートのスペースを確保することができたのだが、この開発途中に興味深いエピソードがある。開発の最終段階で急遽、さらにホイールベースを延ばすという判断が下されたのだ。モンテゼーモロは「3200GT」のローンチ時にも、リアシートやトランクルームなどの優れた実用性を強く強調しており、グラントゥーリズモとしての素性に強くこだわっていたことの証でもある。また、ユニークなブーメラン型テールライトは市販車世界初のLED製であり、「3200GT」の大きな特徴となった。

 

クーペ&スパイダーで北米再進出

続いてモンテゼーモロが目指したのは、しばらく空白になっていた北米マーケットへの再進出だった。「3500GT」から始まる歴代グラントゥーリズモの主力マーケットは北米であったし、カニンガムカラーに彩られた「バードケージTipo60」によるマセラティの活躍も北米のモータースポーツ史に燦然と輝いていたからである。

そこで、マセラティは改良された「クーペ」&「スパイダー」を新たにマーケットへと投入した。そこでは3200GTのツインターボエンジンがマラネッロ製自然吸気V8エンジンへと変更され、特徴的であったブーメラン型テールライトもコンベンショナルな形状へと変更された。

これらは北米の排気ガス規制や、安全規制に対応するためのものであり、言ってみれば「3200GT」の北米仕様とでも言うべきものであった。(1980年後半から「3200GT」までの北米輸出は途絶えていた)北米マーケットにおけるラグジュアリーブランド必須のオープントップモデルである「スパイダー」を皮切りに「クーペ」を北米主導で導入したという訳だ。

モータースポーツ本格復帰を象徴するグランスポーツ&グランスポーツ·スパイダー

続いて「クーペ」&「スパイダー」の改良版として、FIA GT選手権でモータースポーツへの本格復帰をアピールした「MC12」のモチーフを活かした「グランスポーツ」&「グランスポーツ・スパイダー」が誕生した。こういった文脈に続いて生まれたのが、冒頭の「初代グランスポーツ」と「グランカブリオ」なのだ。

先だってデビューを飾った「新型グラントゥーリズモ」、そしてこの「初代グラントゥーリズモ」、共にスポーツカーを代表する重要なカテゴリーネーム“GT=グラントゥーリズモ”をそのまま、モデル名に命名してしまっている。これも元祖イタリアン・グラントゥーリズモを仕立てたマセラティだからできるということを忘れてはならない。
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